「¥JOY×プロスポーツ記者」が選ぶ極上バトル④ 「譲れない位置」

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宗景祐樹
関東を代表する「競り屋」
同県同士の競り

 競輪の魅力を語る上で外せない『競り』。他の公営競技にはないライン戦が生んだ競輪ならではの事象で、私(競輪ファンから転職して駆け出し記者。競りを語るのはおこがましいが)が競輪に取りつかれてやまないもっとも大きな一つでもある。競輪ファンにとってもはや説明は不要だが、簡単にいうと「ケンカ」に近い。一人の選手の後ろをめぐって二人(あるいは三人など)がその位置を奪い合う。当然、脚力の消耗に繋がるがそんなことはおかまいなし。お互いがその位置を引けなければ競りということになる。

 現場に出始めてもっとも印象的だったレースが2018年4月2日(月)に京王閣競輪場で行われたF1シリーズ。そのレースは開催2日目準決勝の最終12レースで、競りの名手で知られる宗景祐樹(栃木・84期)選手と同じ栃木県の佐藤悦夫(86期)選手がいた。関東地区の自力型は堀内昇(茨城・95期)選手がおり、後は栃木の両者が競走得点順で並べば佐藤-宗景の順であった。初日のレース終了後にメンバーが発表されて宗景選手を記者陣が取り囲み並びを確認すると、「少し記者の方、外してください」と言われてその場を離れた。様子を伺うと佐藤選手と話し込んでいる。およそ30分ほど経ち、両者の話が終わりそれぞれを記者が囲むと答えは共に「堀内君の後ろ」であった。同県同士の競りである。他地区同士の選手が競り合うことはよく見られるが、同地区の選手、ましては同県の選手同士となれば話は別である。お互いでどういう会話がなされたかは分からないが、両者の鬼気迫る表情は印象的であった。

 当日、号砲がなりレースがスタートすると両者の競りは壮絶であった。打鐘前に一旦競り勝った宗景選手だが、最終ホーム手前で再度佐藤選手が内を追い上げて競る。結果的に宗景選手が1コーナーで位置を取り切ったが、競り負けた佐藤選手は落車。宗景選手も脚の消耗で堀内選手に離れての7着。両者の意地を懸けたぶつかり合いは共に着外に沈む結果となったが、仕事を忘れてレースに没頭した感覚は2年後の今でも鮮明に覚えている。ナショナルチームの活躍でスピード競輪が主体となる現況だが、一ファンとしての目線でこれぞ競輪と思わせるレースであった。

レースダイジェストはこちら→ https://keirin.kdreams.jp/yenjoy/kaisai/digest?gradeCd=2&kyogijoCd=27&kaisaiDate=20180402&raceNo=12

及位然斗記者

2020年5月12日 12時30分

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