不撓不屈・ボスの自転車人生

不撓不屈・ボスの自転車人生

後閑 信一 後閑 信一 ごかん しんいち 元競輪選手  平成2年4月に65期生としてデビュー。落車による大ケガや数々の困難を不撓不屈の精神で克服。第46回競輪祭、第15回寛仁親王牌、第56回オールスターとG1で3V。面倒見いい親分肌と風貌から〝ボス″と称された。平成30年1月引退。通算成績は2158戦551勝、2着311回、3着255回。

第73回 21歳で2億2000万円の買い物  2019年8月31日

 同期のハイレベルな活躍により、私も山本真矢選手、吉岡稔真選手、海田和裕選手の陰に隠れながらも1年でS級にあがり、普通よりはまあまあ頑張れて稼げていた様に思います。その当時、私はかなりの物欲がありましたので、それらを手に入れようとドーパミンが出まくりの状態で毎日を過ごしていました。ドーパミンとは物事が達成しそうな時や、欲しい物が手に入りそうな時に脳から出る「快楽の脳内物質」です。私はデビュー以降28年間、練習においても、レースにおいても、私生活においても、自分自身をウキウキ、ワクワクさせ気持ちをコントロールしドーパミンを分泌させる事が得意だったのだと思います。イコールそれは集中力ですので、お腹も空かず取り組み過ぎてしまうときがしょっちゅうありました。いつのまにか練習してくれる仲間は脱落、いなくなってしまう程でした。
 私の21歳当時の欲しい物は【家】【車】【時計】。先ずはこの3つがどうしても欲しい!普通なら順番をつけて、ひとつづつ手に入れて行くのだと思いますが、ここが私の常識の外れたところ……。順番なんか関係ねえよ!全部一気に買うんだよ!ということで新築でバブル期に建てた2億円の家を内見に行き即買い!サウナにトレーニングルーム付きの物件を前橋市内の街中に程近い場所に城を構えました。そしてお次はクルマです!先ずはベンツでしょ!ということで当時、新型メルセデスベンツS600が発売されるという情報が入り、1日でも早く乗りたかった私は、ヤナセのディーラー物が待ちきれずに新車並行で注文をしました。その価格1800万円也!次は時計です。ジャージにサンダル姿で新型のメルセデスベンツS600に乗り、高崎市にある貴金属店(サントノーレ)へ。当時はまだバブルが弾けたものの、まだ余韻がある時代から競輪の売り上げも1年間に2兆円に届くか!とまで言われた、まだまだ賞金も高かった時代でした。世の中もまだ見栄の張り合いができた時代でしたので、サントノーレは大盛況!店内も駐車場もいっばいでした。私は21歳のくそガキにもかかわらず、ベンツから降り、ジャージにサンダル姿で財布は持たず、ジャージのポケットに現金200万円を入れて何気なく時計売り場のショーケースへ……。まずは一番高価な時計を探しました。店員さんはジャージの私を見てコイツは絶対に買うわけない!と相手にしてくれません。隣には奇麗に着飾ったカップルやそれモンの雰囲気のあるイカツイ人達が隙間もないくらいショーケースの時計に魅了されています。そこで私は「すみませ~ん。この金無垢のローレックス見たいんですけどお~」と言うと、ショーケースにむらがっていた人達が一斉に私に注目!なんちゅうステイタス(笑)。試着して即答「これ下さい!」
 21歳の私は家とクルマと時計を合わせて2億2000万円の買い物をし一度に手に入れました。しかしこれは自分にとって自分自身にそれだけの物を背負わせる事によって、常に自分と向き合い、自分と相応しいか?と問いかけもあり、ギリギリの崖っぷちに追い込む為でもありました。20歳で結婚をして21歳で長女の百合亜が生まれ、更にこの買い物ですから、今思うと競輪選手は夢と希望があり、普通では出来ない暮らしが叶う素晴らしい職業であると私は思います。

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