• 前橋競輪場 第31回寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント10/20〜10/23

後記 GⅠ 前橋 10/20

思い出の地でグランドスラム

新田祐大

新田祐大

決勝優勝写真
決勝優勝写真
決勝優勝写真

 22年、21世紀になって初のグランドスラマーが誕生した。
 「僕はあんまり思い出的な部分は語らないんですけど。ここで初めてG1の決勝に乗って、その時に山崎(芳仁)さんが優勝した。ある意味、思い出の地での優勝っていうのは、すごく感慨深いものになりましたね」
 グランドスラムへの第一歩を踏み出したのも、この前橋だった。初めてのG1決勝の舞台。08年の寬仁親王牌では、4車の福島ラインの先頭を務めて主導権。山崎、岡部芳幸のワンツーに大きく貢献した。今度は3車のライン、小松崎大地、守澤太志とファイナルに臨んだ。
 レースは赤板過ぎに腹を固めた古性優作が先行策。絶好の3番手を手に入れていた新田祐大だったが、前団との間合いを取ってスペースを空けたところを関東に入られて様相は一変した。
 「3番手にはまって車間が切れた。あとはタイミングを計ってと思ったところで、吉田(拓矢)君が来てしまった。それが内に詰まった原因ですね。そのあとも1周ずっと内に詰まり続けて、(最終)バックもすごいことになってしまっていた」
 最終ホームで5番手に立て直したのも束の間、今度は松浦悠士が襲い掛かる。1センター過ぎからは松浦に押し込められて踏み場を失い、下げても外には井上昌己がいた。
 「(小松崎)大地さんも勝てるように走れって、言ってくれました。ずっと頑張れ、頑張れって言ってくれて、信頼して付いてくれていた。イチかバチか、なにも考えずに踏み込みました」
 逃げる古性の番手で、稲川翔が吉田をブロック。空いたコースを松浦がすくうと、新田は瞬時にさらにインを突いた。直線の入口では、古性の内を踏んで一縷(いちる)の望みにかけた。
 「僕のなかでは守澤(太志)君のスピードがかなり良かった。差されてしまったなっていう気持ちと、グランドスラムは簡単じゃないないなって。そのあと1着は1着って(お客さんに)言われてたけど。審議になっていた。去年のイメージがどうしても払しょくできなくて、また結果として出なかったかな。また来年か…」
 先頭でゴール駆け抜けた新田だったが、内側追い抜きの審議対象になった。昨年の寬仁親王牌の決勝での2位入線の失格が、脳裏をよぎらないはずはなかった。どれだけ長く感じられただろう。審議の結果、新田の優勝が確定して、99年の神山雄一郎に次ぐ4人目のグランドスラムを成し遂げた。
 「(グランドスラムを)どちらかと言うと当事者というよりは、第三者的な目線で考えてしまってたところもあった。観客的な感覚でゾワッとしたというか、鳥肌が立ちました」
 12年のロンドン、昨年の東京と2度の五輪出場を経ての8回のG1制覇。昨年はオールスターまで自転車競技に専念していたこともあり、16年から続けていたS級S班からも陥落。S級1班として22年をスタートさせたが、5月の日本選手権では指定練習のアクシデントで肩鎖関節脱きゅうの怪我を負い、思うような走りができていなかった。
 「一戦、一戦、1日、1日。その日のコンディションを自分なかでベストを出せるように心がけていた。若い選手たち、先輩はもちろんですけど、みんなが試合に集中できる環境をつくってくれた。このレースで勝てたのは、自分一人で成し遂げたわけではないって実感しました」
 11月の競輪祭を残してS級S班への返り咲きが決まり、年末のグランプリを当然ながら視野に入れる。
 「(グランプリは)ぶっちゃけ想像してなかった。12月に(5月に怪我したところの)手術をする予定でしたので、それを早めるか、遅くするか。(この優勝で)いいことがおきたので、スケジュール調整をしないと」
 寬仁親王牌を含む6冠を制して、グランプリ制覇の“完全グランドスラム”は誰も成し遂げていない。前人未到の域に、新田が突き進もうとしている。


 新田が内に詰まり、北日本3番手の守澤太志は、最終2コーナーで9番手からまくりを打つ。大外を強襲したものの、最内に新田にはわずかに及ばなかった。
 「新田君が内に入っていって、番手なら付いていくけど、3番手なら付いていってもチャンスはない。申し訳ないけど、外を踏ませてもらった。(最終)バックからはずっと夢をみていました。みんなが脚を使っているなかで、イケたと思ったけど、稲川さんのあおりが大きかった」

 打鐘の4コーナーから反撃に出た松浦悠士は、中団まで押し上げると、新田をキメながら進出。稲川が吉田のまくりを張ったところを逃さずに、大阪コンビの間を割った。
 「古性君が駆けるタイミングで、(吉田が行って)踏み合ってくれるかなって思った。けど、(吉田が3番手に)スポッと入って慌てて追い上げた。(吉田も仕掛ける準備をしていて)あの外はなくて、平原(康多)さんの内が一瞬空いたので行けるところまでと。古性君が最内を空けたので想定外だった。新田さんが行けてなくても、守澤さんには行かれていたし、やっぱり当たらないでいかないとですね。見せ場はつくれた。それだけに、獲りたかった」

Race Playback

レース展開4
 先行した古性優作選手の内から追い込んだ新田祐大選手が優勝。グランドスラムを達成。外をまくった守澤太志選手が2着、3着に松浦悠士選手。

レース経過

誘導員 : 稲村成浩

 号砲が鳴ると平原康多、小松崎大地、井上昌己が飛び出すが、内枠の平原が誘導員の後ろを占めた。初手は吉田拓矢-平原、松浦悠士-井上、古性優作-稲川翔、新田祐大-小松崎-守澤太志の並びとなった。青板を過ぎると新田率いる北日本勢が上昇開始。古性-稲川も続く。新田が吉田に並びかけると、吉田はスンナリ車を下げた。北日本勢が前に出ると、古性-稲川がさらに押さえて出る。松浦は吉田の内を突き、赤板は古性-稲川、新田-小松崎-守澤、松浦-井上、吉田-平原で通過した。2コーナーで吉田がスパート。ジャンで古性がベースアップしていたため、後続の出方をうかがっていた3番手の新田は前と車間が空いてしまい、古性-稲川の後ろに吉田-平原が入り込む。8番手となった松浦は2センターから反撃開始。松浦は5番手まで踏み上げると、最終ホーム過ぎの2コーナーから新田を押し込み内に潜り込んだ。2コーナーを立ち直ったところから吉田がまくりを敢行、どん尻となった守澤もまくり上げる。じわじわと迫ってきた吉田を2センターで稲川がけん制すると、空いた内に松浦が入り、さらに新田が松浦の内に進路を取る。新田は先行する古性が松浦をけん制したすきに内に入ると、ゴール前で抜き去り優勝。2センターから大外を回された守澤ながら、山を乗り越えると直線はイエローラインあたりをぐんぐん伸びて2着。3着には4コーナーで稲川の内をすり抜けた松浦が入った。

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