村上博幸が想いを語る ~熊本記念in久留米~

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村上博幸
複雑な胸の内を素直に明かした
兄・村上義弘の引退を受けて

 昨日、競輪界に激震が走った。2度の競輪グランプリ制覇、6度のタイトル獲得を誇る『魂のレーサー』村上義弘(京都・73期)が引退を表明したのだ。突然の発表に、ショックを受けたファンも多いとは思うが、それは共に戦ってきた選手とて同じ。特に、その背中を追い続けた弟の村上博幸(京都・86期)の心中は、察するに余りある。報道陣の取材に応じた博幸が、素直にその胸の内を打ち明けた。

 「ここ数年、いつそういうことがあってもおかしくないとは感じていました。でも、急過ぎて。整理できへん。信じられへん」
 度重なる激戦を乗り越えてきた義弘は、ここ数年まさに満身創痍の中で戦ってきた。すぐ傍らにいた博幸だからこそ分かっていることもある。だが、その時が今とは。博幸すらも、受け止めきれていない様子だった。
 「つい2日前も、バンクに行ったら自転車が掛けてあって。不思議な感じ。まだ受け入れられていないです。厳しかったけど、兄がいたから今の自分がある。周りのみんなは、兄が強くなってから『強い兄を持って大変だな』って言うけど、僕にとっては強くなる前から憧れ。いまだにその気持ちは変わらない」

 整理し切れていない感情を、思い出を振り返りながら整理していく。
 「思い出のレースは本当にいっぱいある。初めて兄弟で乗った、地元の共同通信社杯。ダービーでのワンツーも、グランプリも。特に2014年の名古屋ダービーは忘れられない。もう15年くらい一緒に走ってて、兄弟で走ることにみんなは慣れてきているけど、僕はこれが最後と思って走っていた。僕が頑張らないと一緒には走れないと思っていたし、いつ終わるか分からない。2014年のダービーは目に焼き付いていますね。初めてレースでメンタル的に狂っていた。それぐらい高ぶっていたのを覚えています」

 義弘の残してきたものは、あまりにも大きい。今後、博幸が兄の代わりを務めるのかと言えば、それは違うだろう。義弘の残したものを受け継いでいくのは、近畿地区そのものだ。
 「兄のいない特別競輪で自分がしっかりしないととか、そういう感覚ではない。近畿の後輩たちみんなが兄の背中を見て育って、それぞれが看板を背負っている。本当に、まだ感覚がないというか。信じられない。これから考えていきたいです」
 動揺を隠さず、いつもと同じく本音を語った。大きな喪失感を胸に秘め、そしてそれを乗り越えて、また激しい戦いの中に身を投じていく。

熊谷洋祐記者

2022年9月30日 17時28分

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