全冠制覇に王手の完全V
佐藤水菜
役者の違いをまざまざと見せつけた3日間だった。前回、4月のオールガールズクラシックでは準決の2着で土がついたが、今シリーズはパーフェクト優勝の3連勝でファンの期待に応えた。
「自分の思うようなレースができて、すごく有意義な3日間でした」
笑みを浮かべながら佐藤水菜が、いつものようにさらりと振り返った。
レースは併走していた竹野百香を赤板で前に入れて、4番手で打鐘を迎える。2番手にはナショナルチームのチームメイト、仲澤春香が前との車間を空けて佐藤を警戒。それでも佐藤に迷いはなかった。自身の力を信じて、4コーナーで外に持ち出して前団に襲い掛かった。
「もう残り1周になる前には、誰かしら動きたいタイミングはわかっていた。そこで自分が一番最初に駆けようと思っていました」
仲澤の横を通過した佐藤は、先頭の奥井迪をスピードの違いでとらえて、そのまま加速。最終2コーナーでは後ろに付けていた尾崎睦を置き去りにしたが、今度は梅川風子がまくってきた。
「(前の3人をとらえた感触は)モガき合いにならないように、自分がゴールで優勝できるように考えて走りました」
断然の脚力をもちながらも、佐藤はあくまで冷静だった。梅川のまくりを合わせて、佐藤との間合いを詰めた尾崎を直線で寄せつけることなくゴールを駆け抜けた。
「(自分にとっては)一番嫌なゴール前勝負になってしまった。もう座るところがないサドルで、今世紀最大の力で踏み込みました(笑)。ずっと踏んでいるんですけど、さらに気合いで踏み込みました。雑巾のように脚を絞って、絞りました」
完勝のロングまくりも、「ヒリヒリのハラハラだった」と、場内の優勝インタビューで応えたように、佐藤に余裕はなかった。
「(競技用の自転車との違い)一生懸命工夫していろいろやってみたんですけど、理想のフォームにはいまの自転車にはなかなかならなかった。練習でも仲澤さんに負けて、危機感をもってここに入ってきた」
昨年11月の競輪祭女子王座戦、今年4月のオールガールズクラシックに続いてG1を3連覇。それでも自身の理想はまだ先にある。
「心残りなのは1周半、駆けたかった。自分のタイミングで行ったんですけど、こういうタイトルレースで長い距離を踏んでいかないとっていうのがある。もう1段階ステップアップするために、必要だと感じている」
すでにグランプリを獲っている佐藤は、8月の女子オールスターを優勝すれば、G1の4冠とグランプリの完全制覇、グランプリスラムを達成する。
「(女子オールスターでグランプリスラムのかかるが)そうなんです、頑張って獲ります。でも、500バンクなんで難しいけど頑張ります。どんなレースでも、どんな勝ち上がりでもやることは1つ。勝つことだけなので、1着だけを狙って、自分のレースをして勝ちたいです」
敵なしの“絶対女王”にとって最大のライバルは、自分自身なのだろう。
周回中から佐藤の後ろにいた尾崎睦は、奥井を越える最終2コーナー手前で置いていかれる。それでも梅川のまくりに合わせて、佐藤との距離を詰めた。
「(佐藤の後ろが)優勝に一番近い位置だと腹をくくって追走に集中していた。梅川さんも強いけど、余裕はなかったので、サトミナ(佐藤)だけを見ていました。梅川さんが仕掛けてきた時に、(佐藤と)車間が空いて入られないようにしてキツかった。(最終)3コーナーで吸い込まれて夢を見たけど、(佐藤は)流していたんですね。踏み直しがすごかったです」
竹野百香は、最終バックで最後方に近いポジション。2センターからは内を踏んで3着に入った。
「緊張しすぎて覚えていないんですけど。見せ場がなくて、最後に空いたところをすくうだけになってしまった。(周回中は)佐藤さんよりも前にいないとって、そこは気持ちを強くもった。けど、ずっと人の後ろで、なにもできなかったです。脚が余ってゴールをしたので、悔しかったですね。結果だけではない大事なこともある」