早期卒業生が初タイトル
寺崎浩平
グランプリスラムを達成した2月の全日本選抜、6月の高松宮記念杯。今年2度のG1制覇を遂げた脇本雄太の前を2つとも務めていたのは、寺崎浩平だった。それだけに「脇本さんがハコを回れって言ってくれた。古性さんからも」は、周囲の誰もが納得の流れだった。ただ、“脇本のハコ”は、寺崎のプレッシャーも計り知れないものがあったに違いない。
「最初で最後のチャンスのつもりでした。これで獲れないなら、たぶん自力でも一生獲れないだろうっていう心構えで挑みました」
同県の脇本が先頭を買って出て、後ろを固めるのが古性優作、南修二の大阪コンビ。勢いのある太田海也、今年のダービー王の吉田拓矢らが相手だとはいえ、これ以上ない近畿の布陣。寺崎は脇本の背中に集中。感覚を研ぎ澄ませていた。
「(打鐘前に後ろがもつれたことは)全然わかっていなかったですし、僕はもう脇本さんと連結を外さないように。ジャンからピッチもどんどん上がっていきました。別線が来られるようなピッチじゃなかった。そこはもう後輪にだけ集中して付いていきました。後ろは固めてくださっている南さんと古性さんがいる。自分は前のことだけに集中して、行けるところから行こうって考えていました」
古性がスタートを取り、近畿勢にとっては思惑通りの前団。太田を脇本が突っ張ると、古性、南が外を回して危なげなくドッキング。太田はズルズルと後退して、5番手に単騎の松本貴治、6番手に吉田で最終ホームを迎えた。
「さすがに(最終)バック線ぐらいで、脇本さんもスピードが鈍った感じがしました。別線の吉田君も太田君もまくりに来られたら、のみ込まれるよりは自分がしっかりタテに踏んで、ラインで決まるように走りました」
吉田が6番手からまくりを打ち、寺崎は引きつけることなくバック手前から発進。吉田は古性の横まで至らず、優勝は寺崎と古性に絞られた。
「全然、脚はたまっていなかったですし、(最終)4コーナーから直線がすごく長く感じました」
詰め寄る古性を1車輪、振り切ったところがゴール。通算6回目、今年3度目のG1ファイナルで初めてつかんだタイトルは、寺崎にとってのグレードレース初優勝だった。
「(デビューからG1制覇まで約5年半経ったが)すごく長く感じましたし、今年タイトルに手が届きそうな手応えもあった。実際にタイトルを獲れて本当にうれしいです。しっかり近畿の先頭でやってきたことが実を結びましたし、しっかり脇本さんの番手っていう責任ある位置を回らせていただけたのは、日ごろやってきたことが実を結んだ結果だと」
全日本選抜では、まくりで脇本を連れてワンツーの準V。タイトル獲得が視界には入っていたが、チャンスをモノにする難しさを痛感しているからこそ“最初で最後”と自身に言い聞かせた。
「脇本さんも自力でタイトルを何個も獲っていますし、僕も続けるように。脇本さんの前をまたしっかり回れるように、脚力をつけたい。グランプリに乗ることは目標でしたし、そこに向けていままで通り、一戦一戦、しっかりとG1で戦って積み重ねていきたい」
早期卒業生としては、初のタイトルホルダーが誕生。デビューから常に期待を背負ってきた寺崎が、ファンに応えるオールスター優勝。グランプリスラムへの第一歩を踏み出した。
脇本に突っ張られた太田が下がってくると、古性優作は落ち着いて外を回して赤板2コーナーで寺崎に付き直す。そこからは危なげなく寺崎後位を守り、直線勝負に持ち込んだ。
「(スタートを取るのは)キツかったです。(落車の怪我で)Sを取れる状態ではなかった。けど、そこが取れたら理想だと、いまのできる全力で取りにいって取れて良かった。脇本さんがあれだけフカしてう回したので、ジャンではかなり脚を使いました。寺崎君が先頭に立ったら、(別線が)来たら全部止めようと思っていました。脇本さんがあれだけフカしていったので、(最終)バックから出るのは容易ではなく、寺崎君はキツかったと思う。寺崎君が強かった。まず、悔しいというのはありますが、優勝が寺崎君でみんな文句ないと思うし、優勝してほしい選手でした。悔しいけど、うれしさもあります」
近畿のシンガリを固めた南修二も、ラインとしてさすがの立ち回り。まくった吉田とのスピードを見極めると、直線の入口では後ろからインを突いた松本のコースを阻んで3着に入った。
「(太田)海也が下げて来るなかで、(古性)優作がしのいだ。次は自分がと注意をして、そこからでした。(吉田が来ていたのは)わかっていたけど、前が強いので隙がないようにと。外を踏むと狙われる可能性もあるので、中で勝負をしようと。(今シリーズは)自分のなかでは、いい状態だったと思います」