不撓不屈・ボスの自転車人生

不撓不屈・ボスの自転車人生

後閑 信一 後閑 信一 ごかん しんいち 元競輪選手  平成2年4月に65期生としてデビュー。落車による大ケガや数々の困難を不撓不屈の精神で克服。第46回競輪祭、第15回寛仁親王牌、第56回オールスターとG1で3V。面倒見いい親分肌と風貌から〝ボス″と称された。平成30年1月引退。通算成績は2158戦551勝、2着311回、3着255回。

第114回 日常では味わえない時を過ごせた  2020年11月10日

 黄檗山の朝は早い!夏は暑くエアコンもなく、冬は寒くてストーブがあったかなー?くらいの厳しい環境でした。しかし我々65期の競輪学校時代は、校舎も廃墟の様な古さでしかも各部屋にエアコンも無く、暖房は居室の真ん中に調節の出来ない暖房機みたいな物しかありませんでしたから、まあまあ耐える事はできました。
 しかし朝起こされ座禅から始まり、座禅で終わるのですが、これが結構色んな観点から辛いのです!先ずはドラの様なものが「バーン!バーン!」と朝から勢いよく鳴り響きます。油断をしていると「ビクッと!」してしまう程、強烈な音です。気持ちが引き締まります!自然と選手達も沈黙です。そして座禅に入るのですが、講堂の真ん中を開けて2列ずつになり内側に向き座禅をするのですが、シーン!とすると何故か時間が止まった様な異空間状態になりました。正直「このような時間は日常にはない!」寝ぼけながらの座禅を自分なりに緊張感を持って行っていると、落ち着きのない選手とか、緊張感のない選手とか、競輪場では見られない他地区の選手の粗!そしてその選手が結構なスター選手だった時とかは「なんだ!あの選手もただの人か~」と安心したり、普段あまり真面目そうに見えない選手が超~真面目にガチガチに座禅をしている姿を見ると笑ってしまいそうになったりします。色んな意味でも黄檗山は勉強にもなりました。
 朝の座禅ではまだ各選手も寝起きということもあり大体は真面目に終了するのですが、夕方の座禅では本当に色んな意味で堪えなければならない事があるのです。一日中続く法話や講習や掃除の連続、自転車にも乗れず、トレーニングにも外に出られず、出られるとしたら1列に並んで近所を指導員と少し歩くだけ、、。全く面白くないストレスが溜まる事ばかり、、。ですから選手達も夕方の座禅では全く集中力がない座禅が始まるのです。座禅中に揺れたり、かゆいところをかいたりすると肩をトン!トン!。。された選手は合掌し首を傾けます。すると「バチーン!バチーン!」と警策がうなりを上げます!叩かれた選手は再度合掌をして「ありがとうございます」とばかりにお辞儀をして座禅に入ります。その一連の動きが私には滑稽に見えていました。シーン!としている中で住職が後ろをすり足で歩いていると近くに来た選手には緊張感が走る!トン!トン!警策がバチ~ン!「うう~痛っ!」私達はどうしても笑いが堪えられず「クスクス」と笑ってしまう。すると住職がスッと振り向くのです!するとピタッと笑いを堪え、誰が笑ったか解らない状態になる繰り返し。1日目の座禅も無難に終わると「こんなもんか!」色々と仕込んで来る選手もいました。
 当時は本当に厳しかったですから、今の様に叩くのは良くないとか何ハラだとかの世界なんて存在しませんでしたから、住職の警策もマジで痛い!夏のティーシャツなんかで警策を受けようものなら肩にみみず腫れは当たり前でした。なので面白かったのは冬の座禅でした。常連の選手は少し厚着をして警策を受けていたのですが、中には大げさにプロテクターシャツを着込んで座禅をする選手もいました。オイオイ!そんなに痛くはないだろう!?と思っていると住職がそいつの後ろでピタッと!止まったのです!そしてトン!トン!その選手が首を傾けた瞬間、、「ぼふっ!ぼふッ!」まるで毛布を叩くような全く効いていない音がしたのです!笑いを堪えるのも限界でした(笑)周りの選手も吹き出しながらも堪えながらも、笑ってはいけないそういう時が一番笑えました。住職は完全に怒り指導員に「こんな不真面目な座禅は初めてだ!反省させてください!」と講堂を出て行ってしまった時もありました!
 私は笑ってしまったとはいえ「そんな警策くらいでプロテクター着てくるんじゃね~よ」と思いながら一晩を過ぎるとまた朝がやってきます。座禅の朝です。昨晩の事もあり私は住職の機嫌はいかがかな?と思いながらも座禅をしていたある日の事、私の後ろに住職が、、、私は息を殺して完璧にしていると、合い向かいの列から「プ~」っと音が聞こえたのです。これには流石の私も朝から吹き出してしまい響策を受けてしまった事もありました。まったく!(怒)ふざけんな!と思うときもありましたし、訓練も最終日となり最後の晩の座禅だというのに警策を受けたある先輩選手が最後だというのに痛かったのか?住職に手を上げて「すみませ~ん!」と何やら物申す雰囲気になった時もありました。私はもう一週間も黄檗山にいて明日帰れる!この座禅を乗り越えたら、、、寝て起きたらおうちに帰れる!ウキウキして最後の座禅をしていたのに、、。住職は「なんだ?」とその選手の話を聞きました。すると「こんなに強く叩いてもし次のレース出られなかったらどうしてくれるのですか~?」と言い放ったのです。住職は怒りに怒って「指導員!こっちだってね~%$#”&%・・」とちょっと引いてしまうようなビックリするくらいの怒り方をしていつかのように出て行ってしまったのです。ここにまた時間がかかってしまい住職をなだめるのに、とっくに終わっていた座禅の時間も延び延びに、、、。選手の一言にキレる住職も住職ですが、私は皆が協力しているのに私的な感情で住職に物申して後味が悪くなってしまった黄檗山の一週間の思い出がその時は残念でなりませんでした。
 そしてまだ歳も若くイケイケだった私はその事件の晩、アドレナリンが出まくって全然寝られません。すると私は皆が寝静まりそうになった時にその先輩を呼び出し「先輩っ。あのような発言は訓練が終了してから個人的に申し出てください。みんな団体行動で協力しているのですから。頼みますよ!おやすみなさい」と言って寝た事も今となっては良い思い出となっています!レースでの違反点はしてはいけない事ではありますが、そのルールのギリギリを攻めなければ勝てない勝負もある。自分の車券を購入して下さったファンの皆様の期待に応えたい想いとの狭間で私は頑張っていました。座禅をして事故点が減る。しかも日常では中々味わえない時を過ごせたのも私の競輪人生では良い材料になったと思います。

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